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研究テーマ

★当研究室は以下のプロジェクトに協力し共同研究を展開しています!
  ●科学研究費補助金 科研B(代表) 代表:伊藤毅志(電通大)
     「人智を超えるゲームAIを利用した知の拡張
  ●科学研究費補助金 科研B(分担) 代表:棟方渚(京産大)
     「ゲームシナリオに則した統制実験による人狼プレイヤの思考過程の分析
  ●科学研究費補助金 科研B(分担) 代表:松原仁(はこだて未来大)
     「人狼ゲームのプレイヤの思考過程の分析
  <過去のプロジェクト>
  ○科学研究費補助金 科研C(分担) 代表:保木邦仁(電通大)
     「 現実世界の競争に近い複雑なゲームに対するヒューリスティック手法の適用」(2018年3月終了)
  ○科学研究費補助金 科研B(分担) 代表:桝井文人(北見工大)
     「カーリングを科学する〜情報機械技術を統合した新たな戦術支援の試み」(2018年3月終了)
  ◯科学研究費補助金 科研B(代表)
     「ミスを犯す人間らしいゲームAIの研究 」 (2016年3月終了)
  ◯情報処理学会50周年記念特別研究
     「コンピュータ将棋プロジェクト」'''(2015年10月終了)
  ◯理化学研究所共同研究
     「将棋棋士の直観の脳科学研究」(2014年3月終了)

1.認知科学的研究と人工知能的研究

人間などの知能を持つ動物は、様々に変化する外界から必要な情報を取得し、その情報を内部で処理してそれをもとに行動を決定していきます。この動作は外部から情報の入力を受けて内部で計算し出力する計算機(コンピュータ)と類似しています。
 認知科学ではこの類似を利用して、人間の思考や行動をコンピュータ上で模倣して振る舞いを調べることにより、人間のメカニズムを明らかにしようとしています。この手法は情報処理的アプローチと呼ばれ、認知科学における代表的な研究手法の一つです。
 一方、人間の知的作業の代用としてコンピュータを使おうという立場の研究もあります。この立場の研究では、人間が行っている複雑な計算や直観的行動の代用となる技術を獲得すればよいので、人間の行っている方法とは全く異なった手法で実現しても構いません。このような立場の研究を人工知能と呼んでいます。
 この違いは、たとえば「鳥のように空を飛びたい」という欲求があったとき、ジェットエンジンと鉄の翼を使って航空力学的に空を飛ぼうとするのか、鳥の羽根や飛び方を忠実に模倣してモデルを作ってそのメカニズムを明らかにしようとするのかという違いに似ています。前者が人工知能的なアプローチ、後者が認知科学的なアプローチであると言えます。
 ジェットエンジンと鉄の翼は鳥以上の高速な旅行を実現するかも知れませんが、鳥のようなしなやかに枝から枝に飛び回るような繊細な動きは再現できないでしょう。人工知能的アプローチでは、人間を上回るような高速の計算を可能にするアルゴリズムやハードウエアを実現することを目的としますが、認知科学的アプローチは、人間の知的メカニズムとは何かを調べ、人間とって理解しやすい直観的な入出力を柔軟に行うインターフェースなどの応用分野が考えられます。 このように人工知能と認知科学は人間の知能を拡張するための両輪のような関係にあると言えます。どちらかだけを研究すれば良いというものではなく、バランスよく研究される必要があるでしょう。
 伊藤研究室では、このうちの認知科学的研究を行っています。特に人間特有の熟達化や直観的思考のメカニズムを明らかしようと考えています。

2.将棋(思考ゲーム)と認知科学

 将棋や囲碁などの複雑な思考ゲームでは、人間は複雑な論理的思考や経験的な知識を利用した直観的思考など様々な認知的活動を行ってプレーしています。欧米ではチェスの研究を題材に非常に多くの優れた人工知能や認知科学的研究がおこなわれてきた歴史があり、「チェスは人工知能研究のミバエである 」という言葉もあるほどです。
 チェスと親戚関係にある将棋を例に挙げて考えてみましょう。コンピュータでこの複雑な問題を解決させようとすると、自分が選択できる合法手(ルール上選べる手)をすべて数え上げ、それに対する相手の合法手を考えて…、という風に数手から数十手先までの膨大な局面を調べて、最も自分が良くなる手を選択するという「探索主導型の思考」によって次の一手を決定することになります。
 たとえば、下図のような局面では、現在の有力なコンピュータソフトはすべての合法手(この局面では47もの指し手がある)を考慮して、1秒間に数十から数百もの局面を先読みすることで次の一手を決定していきます。

将棋の一局面

 一方、人間の熟達者はコンピュータのようにすべての合法手を数え上げるようなことは行っていません。可能性のある手だけを直観的に調べて、数手の中から「知識主導型の思考」によって次の一手を決定しています。
 当研究室で行ってきた様々な熟達者を被験者にした心理実験から、羽生名人をはじめとするトップ棋士は有力な2,3手しか候補に挙げず、コンピュータのような膨大な探索も行わず、非常に限定的な局面のみを検討するだけで、次の一手を決めていることがわかってきました。プロ棋士の判断基準になっているものは、経験に裏打ちされた「大局観」と呼ばれる将棋に対する直観的な知識だったのです。
 伊藤研究室では、トッププレーヤーが行っているような思考過程を模倣する知識主導型のコンピュータ将棋プログラムの開発を通して、人間の知のメカニズムを明らかにしようとしてきました。その一例がHITプロジェクトでした。
 熟達者の持つ経験的知識を小さな知識の単位に分けて、駒の配置パターンや様々な条件に応じてどのような手を選ぶかという知識を記述していくことで、探索ではなく知識に基づいた「直観的な思考」が可能な将棋システムの構築を実現できることがわかってきました。しかし、人間の熟達者の知識の中には、このような方法だけでは表現することが難しい知識があることもわかってきました。そこで、これらの知識記述方法だけでは表現することが難しい新しい知識表現を新しい情報処理モデルとして立ててやる必要があります。
 このようにこの研究室では、人間の思考について、仮説に基づき心理実験を計画し、実験を行って、その結果から人間の情報処理モデルを予測していきます。そして、それをコンピュータ上で実現しその振る舞いを調べ、それをもとに、また新しい仮説を立てていくというサイクルを繰り返していきます。このようなサイクルを繰り返していきながら、人間の思考や学習といった高次認知機能を明らかにしていこうと考えています。

3.研究室の研究テーマ

 認知科学的研究手法を用いて、最近は以下のような研究テーマを掲げて研究しています。
 
1) 思考ゲームにおける人間の認知科学的研究
  −プレイをしている人間の視線、脳活動などの計測
  −「棋は対話なり」;対局者間の暗黙のコミュニケーションの研究

2) 人間らしいプレイをするゲームAIの提案と評価
  −人間らしいミスを犯すゲームAIの研究
  −対戦相手のレベルに合わせた思考ゲームAIの開発
  −”人間らしい”とは何か?評価する基礎研究

3) 不確定ゲーム(スポーツゲーム)、不完全情報ゲーム(ガイスター)、多人数コミュニケーションゲーム
  −カーリングの戦略を支援するシミュレーター
  −不完全情報ゲーム「ガイスター」AIの研究
  −多人数コミュニケーションゲーム「人狼」「Dreams」の認知研究

4)熟達者の身体スキルの見える化
  −スポーツや身体技能の高度な技を検出し難易度を表示するシステムの研究
  −身体的スキルを伴う熟達度の可視化を利用した学習支援システム
  −熟達者特有の知識や技を一般の人にわかりやすく表示するシステム

5) 十分に強くなったゲームAIを用いた知の拡張
  −人間を凌駕するゲームAIの思考をどう可視化して人間に伝えるか?
  −ゲームAIを用いたプレイヤレベル(棋力など)の計測
  −相手のレベルに合わせて好敵手となるBotの研究

 また、「エンターテイメント」と「認知科学」をキーワードに、学内外の研究者が集まった研究グループ「エンターテイメントと認知科学研究ステーション」を発足し、相互に連携を取りながら共同研究を進めています。一般向けに色々なイベントや講演会も開催しております。研究ステーションのHPもご覧ください。